豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回は医局が担当します。

家族面談の心構えその1

私たち治療者が患者さんに実際に関わることのできる時間は、実はとても短いのです。診察室の中だけであり、患者さんは圧倒的にそれ以外で過ごします。ということは、必然的にご家族に注目することになります。最近は“家族”の定義も広がっているでしょうし、“最も関係や歴史の深い人(たち)”を思い浮かべていただければ。

ご家族と患者さんとの関係が症状に与える影響は、統合失調症では古くより“High EE(High Expressed Emotion)”が昔から注目されてきました。High EEを平たく言うと、患者さんに対して理解なく感情的にキツイ対応をすること。これは統合失調症の再発率を高めることが指摘されており、特に批判的な物言い critical commentsが関係し、逆に温かさ warmthが再発に対する保護因子になります(Psychol Med. 2021 Feb;51(3):365–375.)。さらに、統合失調症に限らず気分障害(DSM-IVとICD-10による診断)であっても、High EEは再発率の高さと関係しています(J Affect Disord. 2001 Mar;63(1–3):43–49.)。どのような精神障害においても、家庭という場がホッとできるかどうかは重要でしょう。ご家族がメンタライズできれば、患者さんはそれを通してメンタライズする能力を育むことができます。そのために治療者ができることはとても大きいと思います。

ご家族への対応については下坂幸三先生の著書がとても参考になり、大原則はこちら。

治療者はたかだか一回五十分の面接、親は毎日、二十四時間の接触、治療者には患者さんのごく一部分しか分かりません。ですから親御さんのご本人への応援の方がはるかに強力です。(『心理療法の常識』)

そこで私たち治療者がすべきことは、家族面談での心理教育です。「患者さんが抱えている苦しさはこういうものなのです」と知ってもらうこと。ご家族は言わば“我流”で対処してきたのですが、障害に対してみんなで立ち向かっていくための“トリセツ”がこれからは必要になるのです。まずは、障害そのものについての理解をしてもらいましょう。ご家族向けにわかりやすい本も出ているので、例えば統合失調症であれば『マンガでわかる!統合失調症』、うつ病であれば『うつ病九段』や『ツレがうつになりまして。』、境界性パーソナリティ障害であれば『境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ』や『境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド』、PTSDなら『トラウマのことがわかる本』などなど、こういったものを読んで知識を仕入れてもらいましょう。その際、「全部が○○さんに当てはまるわけではありません。これは違うぞというところも多いと思います。その中で、疑問に思う部分があったらぜひ教えてください」とお話ししておきましょう。

実際にご家族とお話しする時、医療者はどうしても患者さんに肩入れしてしまいます。その結果、“ご家族=敵”と認識し、「この家族の考え方を何としてでも変えてやる!」と説教を意気込みがち。そうなると、ご家族も身構えて、医療者から言われたことに対していい気持ちになれません。それは当然でしょう。そうすると、患者さんと医療者が徒党を組んでいると思い、患者さんに対してさらに強く当たってしまうことが予想されます。ご家族の対応を患者さんから聞いた医療者はさらに「あの家族は全然わかってない!」と怒ることになり、ご家族との溝は深まるばかり…。「何でこんななんや…」というようなご家族も、最初から患者さんに悪くなってもらおうと思って接してきたわけではないでしょう。どのご家族もご家族なりに頑張って、よかれと思ってやってきたのです。“親ごころ”があったのです。それをどこかで踏み外して…。言ってみれば、ボタンの掛け違い。ここまで頑張ってきたご家族は責める対象ではなく、ねぎらう対象。他人である医療者こそ、その目線を持たねばなりません。そして、患者さん、ご家族、医療者が同じ方を向けるように、場を整えてく必要があるのです。医療者こそ冷静に。