今回のブログは医局が担当します。

クレペリンによる早発性痴呆

精神障害は、19世紀まで様々な病名が乱立されていた状態であり、またいっぽうで「精神疾患は元来1つであり、それが一人の患者さんの中で変化(進行/回復)する諸段階において種々の症状が出現するのだ」という“単一精神病論”もありました。そこから徐々に整理されてきたのですが、その最初の場はフランス。ピネルやエスキロール、そしてモレルやマニャンなどが基礎づけを行なったと言えるでしょう。そして、統合失調症と双極性障害とうつ病とをきちんとした形で抽出したのが、ドイツの有名なクレペリンであり、1899年に出版した教科書第6版においてです。そこでは、統合失調症は“早発性痴呆”として、双極性障害とうつ病は“躁うつ病”としてまとめて、でした。ここに、2つの大きな精神障害のグループができたのです。クレペリンは分類に当たって“病気の原因、症状、経過、転帰、特定の解剖学的変化”の5つがしっかりとわかるものを理想的な臨床単位だとしました。この中で“病気の原因”と“特定の解剖学的変化”は後世に託す形となりましたが、他の3点で、早発性痴呆と躁うつ病は2つの“まとまり”として浮き上がり、特に“転帰”は、早発性痴呆と躁うつ病との境界ラインを強く引くものとなったのです。それが、“荒廃”に至るか至らないか、という違いでした。最終的に荒廃するものを早発性痴呆とし、そうではないものを躁うつ病としたのです。それにしても“荒廃”ってかなりどぎつく聞こえますね。ちなみに、最近の研究では、統合失調症に罹患している患者さんは66歳の時点で認知症の有病率が27.9%(一般人口の66歳は有病率1.3%)と高率であり、この有病率は一般の88歳に相当するそうです(JAMA Psychiatry. 2021 Mar 10;e210042.)。

ちなみにクレペリンは教科書を第8版(1909-15年)まで改訂しましたが(第9版の改訂途中で死去)、実は最後の最後まで「早発性痴呆は単一の疾患かどうかは確実ではない(可能性は高いけれども)」という趣旨のことを慎重に言っています。そして、彼は教科書の改訂ごとに分類をかなり変えています。実は、早発性痴呆も第4版と第5版では主役ではありませんでした。ハタから見たら「迷走している」と感じるかもしれませんが、自分でつくったものをいったん更地にしてきちんと修正を施していく姿勢はとても素晴らしいと思います。昔つくった自説に拘泥することなく、常に自身に批判的となりアップデートしていくその姿は、お手本とすべき研究者のようですね。