こんにちは。
豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回は医療相談室が担当します。

パパゲーノ効果

今回は、パパゲーノ効果と、心のどこかで死にたいという気持ちを抱えながら生きている人についてお話したいと思います。
最近、同様のテーマを取り扱ったドラマ(NHK:ももさんと7人のパパゲーノ)が放映されたことでも注目を集めていますが、パパゲーノ効果(英: Papageno Effect)とは、マスメディアが人生相談や自殺を思い留まり成功した例を挙げることで大衆の自殺を抑制する効果のことです。
2010年9月、ウィーン大学公衆衛生センターの Thomas Niederkrotenthalerらが、報道による自殺予防効果について実証研究し、王立精神医学会の学術誌「英国精神医学ジャーナル」にパパゲーノ効果として発表したのが最初といわれています。
パパゲーノ効果という言葉の由来は、モーツァルトのオペラ『魔笛』の登場人物で、森で鳥を獲る“鳥刺し”のパパゲーノが、「王子にお供する試練の過程で自殺を決意するが、現れた童子たちの助言に従い魔法の鈴を鳴らしたところ、自分と似た姿の片割れのような存在パパゲーナが現れ、自殺を思いとどまった」という話からきています。
この研究では、「自分と同じように死にたい気持ちを抱えながら、死ぬ以外の選択をしている人の話を知ること」で自殺予防効果があると言われています。
ここからは、パパゲーノ効果に救われている人のお話です。
自己肯定感が低く、どう頑張っても自己否定しかできず、周囲と比べては劣等感に駆られて、どうしようもなく消えたくなることがあります。
積極的に「死にたい」というより「生きていたくない」「消えてなくなりたい」に近い感情。
そんな気持ちをひとりで抱え込んだり、人によっては自傷をしてみたり。
でも目立ちたいとかアピールしたいという訳ではないので、それを誰かに見せたり言ったりすることもなく、相談できずにいる方はたくさんいると思います。
自分なりに信頼できる人や理解してくれそうな人を選んで打ち明けてみても、「頑張れ」「自分を大切に」「そんなの絶対だめだよ」と言われてしまう。
自分がどうにか吐き出した気持ちを相手が頑張って理解しようとしてくれていても、根本的に価値観が違うから平行線。
「このしんどさを誰もわかってくれない」「頑張って伝えたのに理解してもらえない」という経験が積み重なっていく度に、人に期待できなくなり、話すことすら怖くなる。褒められても、賞を取っても、何かすごいことができたとしても、
「自分なんかが…」と否定してしまって、褒められると「気を遣って言わせてしまって本当に申し訳ない」と感じたり、場合によってはなにか裏があるのか疑心暗鬼になってしまう。どんなに賞賛されても、「ありがとう」のひとことを返すことがすごくしんどい。
「自分を大切にしたい」「大切にしなきゃ」という思いが自分の中のどこにもないから、
悪い人につけこまれては「自分なんかでいいなら」「役に立てるなら」と断れなくて、無理に頑張ってしまったり、場合によっては性的にも押し切られてしまうこともある。
そんな出来事も、誰にも話せずに抱え込んでしまう。
もしも自分と同じような人が目の前にいたとしたら、危ない!とか、ちょっと待って!と言えるのに、もう一度自分に置き換えるとどうでもよくなってしまって、自分にはその言葉を向けることができない。
上記のようなしんどさを抱えていて、でもそれをなかなか打ち明けられずにもがきながら生きている方、実はたくさんいると思います。
今の世の中には、このしんどさに対しての社会資源がほとんどありません。
「自殺対策」として掲げられているものの大半が、私たちのような感覚の持ち主の想いとは離れていて、「わかってもらえない」経験に繋がり、より生きづらくなっています。
当院の医療相談室は、そんな生きづらさの相談も可能です。
解決は出来ないかもしれません。理解も出来ないかもしれません。
でも理解しようとすることや、思いやることはできます。どこにも話せなかった思いを、打ち明けてもいい場所だと思っていただければ幸いです。
ぜひお気軽にご相談ください。